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殺人の追憶を見る

殺人の追憶を見る

ポン・ジュノ監督作品。「母なる証明」のほうは前に見ていて、これがまた衝撃的な作品だった。
息子の無実を信じる母親が、殺人の真犯人を探すミステリーがメインなんだけど、母親を可哀想な人だけとして描くのではなくモンスターとしても描いていて、この映画の世界観とか懐の深さには驚かされた。
脚本も良いが映像もまた良く、画面からは不気味な暗さだけでなくどことなく童話的な明るさやのどかさも感じられ、幻想的な雰囲気も素晴らしかったと記憶している(思い出補正あり)。

殺人の追憶」は「母なる証明」の前の作品だけど、両作品ともに人間の複雑さを描く点では通じるものがあると思う。
ソン・ガンホが始めは犯人を見分けることができると自信を持っていたけれど、終盤である事実を前にその自信には何の根拠も無かったことがわかるシーンなどは、そうした世界の複雑さをよく表していると思う。

陰惨な事件と対照的にソン・ガンホのキャラクターは明るく楽しいので映画のバランスはとれていて観ていて辛くはない。ただこの刑事はちょっと間が抜けすぎのところがあり、見る人によっては深刻さやスリルと言った点でマイナス評価の原因になるかもしれない。
どたばたと騒がしいところもあるが、監督はスリル、アクション、ホラー、コメディとなんでも足して混沌の世界を表現したかったのだろうと思ったがどうだろうか。何か一つにズームすること無く、まんべんなく平板に撮ることで独特の世界観が表現されている・・・のかもしれない。

この映画は何かが気持よく解決したりはしないが、ラストシーンでは善悪を超えた不条理さが感じられ、なんとも言えないカタルシス感は得られた。
この感覚は悪は糾弾せなばならないとかそういうものではなく、無差別な殺人や災害や事故による死といった日常でも起こりうる不条理に対し、我々は無力なんだなという諦観に近いものだろうか(暴風に立ち向かう人間の姿は感動的なのだが、その暴風を起こす自然の脅威や偉大さにも感嘆するみたいな)。

この映画は名作として世評も高く、もちろん自分もおすすめなのだが、個人的には「母なる証明」を先に見てしまったのでそこまですごい映画という印象は抱かなかった。順番が違えばまた評価も違ったろうな・・・

同監督作品のスノーピアサーとグエムルはどうなんだろう。どっちも見たけどどう評価したらいいのかわからない作品ではある。この2つと前の2つの映画は正直とても同じ監督作品とは思えないのだが、もしかしたら名作なのだろうかね。