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「日本のいちばん長い日」(2015)の感想

「日本のいちばん長い日」(2015)の感想

登場人物が多い。なのでこのページで誰が誰かを把握したほうがより楽しめる。

映画『日本のいちばん長い日』公式サイト 人物相関図

映画ではクーデターを起こす陸軍将校らの行動がいまいちわかりづらかった。特に井田正孝の行動は途中で畑中らに中止するように言った後、阿南のところに行ったりしていてなんとなく行動が繋がらないような感じも受けた。井田は阿南のところにはクーデター参加の要請をしに来たのだろうか。

岡本喜八版では最後のほうでビラ配りのシーンがあったようにも思ったけど2015年版では無かった。

昭和天皇は岡本版ではほとんど姿を見せなかったが今回は本木雅弘が好演。堂々と天皇描写が出来るようになったのは時代の流れというものなのだろう。
東条英機とのサザエ問答は今作の名シーンだった。

松坂桃李の畑中少佐は映画の最初のほうではとても軍人に見えない頼りなさだったが、終戦のご聖断の知らせを受けた後の、憤りから机を何度も叩くシーンから狂気を帯び始め、冷酷に上官殺害するあたりは十分に迫力があった。純粋なるがゆえの暴走をうまく表現出来ていたように思う。

阿南惟幾は終戦に反対のような、賛成のような、どっちとも取れる態度を見せる。実際はどうだったのかわからないが、映画では戦争継続派の海軍の大西に対し、特攻を否定する発言もしているところから、本心では終戦を望んでいるように描かれてはいる。
阿南は家族にまつわる描写も多くあり、人間的に純粋なタイプとして描かれていて好感が持てるのだが、そのぶん貧乏くじを引かされた悲哀感が先に立ってしまっているような感じはした。もっと腹の見えない威厳みたいなものはあっても良かったかもしれない。自決シーンは見事だった。

その点東条英機はいかにも軍人らしい威圧感が出ていて良かった。将校でなくても直立不動してしまう存在感があった。あの将校とのシーンがあるから天皇に叱責されるシーンが活きてくるんだろうな。ここは良いシナリオだと思った。


クーデターを起こした陸軍将校の自決と、陸軍大臣阿南の自決、両者の自決に戦争の不毛さを感じもするし、また逆に個人としての潔さも感じもする。戦争継続に失敗して死に、終戦のけじめをつけるために死ぬ。戦争は悲劇を生むのだが、価値観の逆転によって死ななくても良いのに死んでしまうことが一番悲しいのではないか、などと思った。


この映画で唯一笑ってしまったのは松山ケンイチが出てくるシーン。なんですかあれは。「行けー!」のところは威勢がよくて面白かったなあ。


以下主要人物の写真とその当時の年齢。画像はウィキペディアから。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/38/Kantaro_Suzuki_suit.jpg/220px-Kantaro_Suzuki_suit.jpg総理大臣 鈴木貫太郎山崎努)77歳

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/18/Korechika_Anami.jpg/200px-Korechika_Anami.jpg陸軍大臣 阿南惟幾 (役所広司)58歳

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/47/Hisatsune_Sakomizu.jpg/200px-Hisatsune_Sakomizu.jpg 内閣書記官長 迫水久常 (堤真一)42歳

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e3/Major_Kenji_Hatanaka.jpg/200px-Major_Kenji_Hatanaka.jpg陸軍少佐 畑中健二 (松坂桃李)33歳

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/44/Hirohito_in_dress_uniform.jpg/200px-Hirohito_in_dress_uniform.jpg昭和天皇 (本木雅弘)44歳


あるシーンで唐突に流れる洋楽がこちら。ここは不思議な演出だった。

www.youtube.com
we'll meet again Vera Lynn
ヴェラ・リン - Wikipedia

詳しくは分からないが、どうやら戦争中のイギリスの歌らしいので、敵国のラジオの電波が入って聞こえた設定なのかもしれない。

そういえば阿南が道場で居合の稽古をしている時に突然現れる青年がいるのだが、あれは上記公式サイトの人物相関図を見ると阿南の戦死した息子のようだ。
こうした阿南の心象風景が描かれるのは岡本版と違う今作の特徴か。ちょっとわかりづらいような気もするけど映画としては面白い試みだと思う。